ジャパニーズストロベリースノードーム


 あの日、俺は体調が悪くて学校を早退した。先日買ったばかりのウォークマンで大音量の音楽(半径1m以内で自転車が倒れても気付かないくらい)を聞きながらダラダラ家に向かっていると視界の端を何か白いモノが霞めた。
「雪…かまくらか?」
 いや、天気は昨日からずっと晴れていたはずだ。それに今日はこの季節にしては暖かい。無視して行こうかとも考えたが、胸騒ぎがするというか、妙に気になるので引き返してそのモノが何なのか確かめることにした。
「おかしいな…たしかこのへんで見たと思ったんだけど」
 さっき通った道を戻るが、あの白いモノはどこにも見当たらない。
「見間違いだったかな…?」
 かなりの大きさだったので見逃すことはないと思うので、最初からそんなモノは無かったのかもしれない。納得はいかないが、あまり帰るのが遅れてもいけない。諦めて帰ろうと再びUターンして我が目を疑った。高さ、幅共に約3m強。雪のように真っ白で外観はドーム型。間違い無い、さっき俺が見たのはこれだ。この高さ幅3m強の雪のように真っ白でドーム型をしたモノ(仮に物体Xと呼ぶ)に違いないが、有り得ない。今物体Xが立ち塞がっている場所は数秒前に俺が通ったハズだ。つまり物体Xは俺がこね空間を通り抜けてから振り返るまでの僅かな時間で、音もなく忽然と出現したことになる。馬鹿な。有り得ない。間違ってる。
「なんなんだよ、これ…」
 答える者はいない。自分で考えるしかない。他の道から帰ることも出来るが、あいにくと俺はこんな不可解な現象を目にして無視できるほど淡白ではない。むしろ好奇心の塊と自負しているくらいだ。とにかく、俺は物体Xの調査と考察を開始した。

 まずは物体Xについて知らなくてはならない。今わかっているのは物体Xが今のところ無臭であることだけだ。俺は物体Xの表面に指先で触れた。右手第二指に白い粉が付着する。同じ場所に違う指で触れてみる。右手第三指に変化は無い。指に付着した粉を舐めてみる。味はしないし、全然トリップできない。少し待ってみるが体にも異常は起きない。今度は左手の掌全面に粉をとり、舐めてみる。やはり味はしない。トリップするかわりに少しむせたが、粉が器官に入っただけなので問題ない。今度は指でつついてみた。ふにふにとして柔らかいが、弾力がある。肉球をもう少しばかりやわらかくすればこんな感触になるだろうか。今度は両手を使ってぐいぐいと押す。物体Xは予想以上に重く、反発力のせいでこっちが押されているような錯覚を覚えてしまう。これ以上続けて体力を無駄に使うわけにはいかないので次に進もう。物体Xの表面を指で摘んでぐいーっと引っ張る。よく延びるが、離しても縮みはしないようだ。延びた部分を更に両手を使って引き千切る。千切れた部分を触ってみるとペタペタと粘着性がある。思いきって千切れたものをかじってみた。

 ぱくぱく ふむ もぐもぐ これは んぐんぐ なかなか ごくん

「うまいなコレ」
 柔らかい食感とほのかな甘味。おいしいが、何かが足りない。そして俺はこの味を知ってる気がする。
「くそっ、思い出せねぇ」
 間違いない。物体Xは俺が知っているなにかだ。なのにどうしてもわからない。こうなったら絶対につきとめてやる。だが、俺にできることはもうあらかたやってしまった。他に何か出来ることはないだろうか…
「そうだ、一度離れたところから見てみよう」
 今思えば、なんでもっと早くそうしなかったのか。小走りで50mほど後ろにさがって眺めてみると、物体Xの頂上にあたる部分が他の所と少しだけ色が違うのに気付いた。俺は直感した、あの赤色こそが物体Xの正体のカギだと。幸いここは狭い道で、辺りには民家が並んでいる。物体Xに最も近い家のブロック塀に乗って頂上部を間近で観察する。やはり赤色、俺は物体Xの正体が分かった気がした。それを確かめるために物体Xの上に跳び移る。粉で滑る指を立ててなんとか赤いところまで登った。どうやら頂上に近づくほど白い皮が薄くなっていて中身がうっすら見えているようだ。俺は物体Xにてっぺんからかぶりついた。白い皮の穏やかな甘さと見事にマッチした甘酸っぱくジューシーな果肉とフルーティーな香り。推測は今、確信に変わった。これはまさしく…

「苺大福!!」