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気を失っているジョージを雫が背負い、三人は最寄の駅で隣町へ向かう電車に乗り込んだ。途中、ジョージが背中で寝ていることに気付いた雫は、やはり一度声をかけてから楓と一緒に殴り起こした。
「じゃあ、とりあえず駅に着いたら私の能力で残った気配を探るわね。結構時間が経っちゃったからどこまで追えるか分からないけど」
今は三人でこの後の方針について話し合っている。といっても、相手の能力が分からないことには対策のたてようが無いのでいつもと同じこ事を確認するだけなのだが。
「そういえば返り討ちにあった二人ってどんな奴だったんだ?」
雫がわりとどうでもよさそうに質問する。楓はメモ帳を見ながらその問いに答えた。
「えっと…二人ともまだ中学生ね、相手の力量も測れないようだからたいした使い手じゃないわ。それよりも問題はその相手よ」
楓の表情が険しくなった。それにあわせて雫も真剣な面持ちになる。
「いくらガキだからって二人も同時に退けるなんて只者じゃ無い。もしかしたら三人がかりでも厳しいかも…ちょっと、聞いてるの良次?」
ジョージは聞いてるよ、と答えて
「大丈夫だって、何とかなる」
と、呑気に笑った。そうこうしているうちに、電車は隣町に到着する。三人は駅のホームを抜けて駅前の広場に出た。
「じゃ、始めるわよ。二人とも、くれぐれも油断しないで」
雫が頷き、ジョージがへーいと軽い返事を返す。楓は目を閉じて意識を集中する。体の奥底に沈みこむようなイメージ。心の中、そのさらに深いところにまで手を伸ばし、自分自身の根源ともいえるそれの名を呼んだ。
「―――双頭の鷲の騎士団(イーグル・クレスト)」
楓の背中に、緑色の燐光を纏った大きな翼が現れた。楓はそこから一本の羽を抜くと、フワリと風にのせるように手を離した。羽は地面に落ちることなく風に流されていく。
「ほら早く、見失っちゃうわ。」
翼をしまった楓が二人を促す。人波を掻き分け、羽のあとを追って行く。200mほど進んだところで、羽はその役目を終えて空気に溶けるようにして消えた。三人は羽の消えた扉を勢いよく開けてその店に駆け込んだ。どう贔屓目に見ても『怪しい』の一言に尽きる、そこはそういう店だった。極彩色に彩られた店内には動物の骨、水晶でできた玉、何かの干物、奇妙な形をした小物、それらは全て本の中でしか見ることの無い魔法使いの道具のようだった。その店の奥、別室になっている部屋から一人の少年が出てきた。
「ジョージさん!」
少年は一瞬の驚愕の後、まるで救世主でも見つけたかのような表情を浮かべた。
「よぉミツ、しばらくぶりだな。」
ジョージが気軽に挨拶を交わすが、あとの二人は緊張を隠せなかった。
「…良次、知り合いなの?」
楓が警戒心を剥き出しにして尋ねる。ジョージはいつもの調子で呑気に答えた。
「あぁ、うちの道場の門下生で俺の弟みたいなもんだ。俺たちより二つ下で、腕のほうもなかなかのもんだ」
「ジョージさんのお友達ですか?始めまして、武藤 光影(むとう みつかげ)っていいます」
少年は明るく挨拶したが、二人はそれに答えずにジョージに詰め寄った。
「良次、分かってると思うけど今回の標的は彼なのよ? なに呑気に自己紹介なんてしてるのよ」
「俺たちは最悪こいつを廃人にしなきゃならないんだぞ? 事の重大さがわかってんのかジョージ?」
二人の剣幕にも、ジョージの笑みは崩れなかった。
「まぁまぁ、とにかく話を聞こうじゃないか。ミツ、お前今日駅前で戦ったか?」
光影はとんでもない、と首を振った。
「俺段持ちっすよ?そんなことしたら今頃こんなとこにいないっすよ」
「人じゃなくてもいい。なにか変なものと戦ってないか?」
ジョージの目表情は穏やかだが、その目は妙に迫力がある。言葉に詰まった光影だが、神妙な面持ちで話を切り出した。
「その…戦ったわけじゃないんですけど、急に物陰から人が飛び出してきたんです。俺と同い年くらいのやつが二人。とっさに構えてガードしようと思ったら、急にそいつらが倒れたんです。白目剥いてなんかヤバそうだったからとりあえず救急車よんだんです。それで、飛び出してきたときに二人の横になんかいたと思うんですけど、倒れた時はもういなくなってて…」
そこで光影は一度言葉を切って、半ば叫ぶようにして懇願した。
「ジョージさん助けてください! 俺、悪霊にとり憑かれてるんです!!」
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