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そこまで聞くと後ろにいた楓は明らかに顔をしかめた。
「うーん、どうやら彼はまだ準覚醒状態のようね・・・厄介だわ」
「そうだな。このまま放っておくのも問題だしな。でも、どうしてそのクラッシュされた二人は彼を襲ったんだ?準覚醒タイプってつまりは見えるだけだろう?そんなの倒しても得になるとは思えないんだけど」
隣で楓の呟きを聞いた雫が言った。
「うーん、それもそうね。もうちょっとその時の状況を詳しく聞く必要がありそうね。ね、光影君だったかしら、もう少しその二人が襲い掛かってきた時の状況を詳しく教えてくれない?」
前に立っていたジョージをどかして、楓はまだ錯乱状態から立ち直れていない光影に聞いた。光影は突然やってきた訪問者の剣幕にたじろぎつつも、襲われた時のことについてゆっくり口を開いた。
「朝、駅前の広場を通ったんですけど、途中ビルの裏からいきなり俺とそんなに歳が変わらない少年が二人飛び出してきたんです。急に攻撃してきたんで、つい反射的にガード体勢をとったんですけど、気づいたらその少年たちは地面に倒れていたんです。それで、咄嗟にカウンターを食らわしたんじゃないかと心配になって様子を覗いたら、二人とも泡を吹いていたんです。急いで救急車を呼んだんですけど気づいたらもう二人ともいなくて。朝から不気味なことが続いたんで、恐ろしくなって急いでその場を離れたんです。でも、確かにその倒れた二人の後ろにモヤモヤとしたものが漂っていた気がします」
その光影の言葉を聞きながら楓は手にしている手帳になにやら書き込んでいたが、光影の説明が終わると顔を上げた。
「その二人に見覚えは?」
「二人とも知らない人でした」
楓はまた手帳になにやら書き込むと少し唸り、何かを考え始めた。その様子を後ろで見ていた雫がふと気づいたように光影に聞いた。
「そういえば、不気味なことって?」
それは、と一瞬光影は躊躇ったが、それでも喋りだした。
「昨日遅くまで道場で練習していたせいか今朝は起きたら遅刻しそうだったんです。それで、いつもは通らない裏路地を抜けたんです。それで、表通りに差し掛かろうとしたところで前に黒い布のようなものを被った誰かがいたんですよ。かなり急いでたんで無視しようと思ったんですけど、細い道でしたからどうしてもその人が邪魔で通れなかったんです。だから、すいませんって声を掛けたんですよ。そうしたら、その人、四十路ぐらいの男の人だったんですけど、こっちを振り返ってニタって笑ったんです。気味が悪かったんですけど、瞬きの一瞬にはフッと消えてたんです。急いでたこともあって、見間違えたんだろうなってその時は納得して通り過ぎたんですけど、今思うとどうしても見間違いだとは思えなくて。それで、その後駅前の広場を歩いていたら急に襲われたんです。」
「ひょっとして!」
何か考えていた楓だったが光影の言葉に突然声を上げた。そして、急に大声を出した楓をいぶかしむように見ていた光影や雫、ジョージだけは店の中の品物を珍しそうに見ていたが、に構わず、目を閉じて集中し始めた。楓がやろうとしていることに気づいた雫が止める暇もなく、楓は緑色に光り輝く羽を一枚取り出した。
「ね、これがなんだか見える?」
その羽を光影に見せながら楓が尋ねた。
「うわぁ、綺麗な羽ですね」
突然羽を見せられたことに戸惑いつつも、光影は素直な感想を漏らした。
「やっぱりね」
その感想に楓は納得しながら頷いた。その様子に側で見ていた雫は自分の想像――突然に楓が光影に襲い掛かるという事態にならなかったことにほっとしつつも、よく分からないという顔でこれもやはりよく分からないという顔をしている光影の分も代弁して尋ねた。
「なにがどうやっぱりなんだ?」
「つまり、光影くんは準覚醒タイプの中でもかなり見えるタイプなのよ。先天的か、何かの外的要因でそうなったのか知らないけど。だから、私の羽もくっきり見えているのよ」
「そうみたいだな。それで?」
「それなのに今朝襲ってきた二人組のまわりにはボヤっとしか何かがいたということしか見えなかった。つまり、ホントにボヤっとした何かしかいなかったのよ」
そこまで言うと雫も納得したようだった。
「そうか!その二人組は誰かに能力で操られていたんだな!その二人はカウンターを食らって泡を吹いたんじゃなくて、精神的に干渉されたことによって、最初から泡を吹きながら襲い掛かってきて、ガードされた瞬間に偶々キャパシティーを越えて倒れたんだ」
「つまり、本命はその黒い布を被った男だな」
さっきまで店内をウロチョロしていたジョージがいつの間にか話に加わっていた。
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