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ようやく学校の校門が見える所まで来た雫と光影、とその光影に担がれているジョージが見たものは正に奇妙な光景だった。白目を剥き、口から涎を垂らした生徒が4人ほど校門の前に何をするでもなく立っているのである。しかし、それよりもさらに奇妙なことにそれを見ても下校していく生徒誰一人として気にも留めないのである。というより、まるで見えていないかのようにその傍を素通りしていく。
「・・・えっと、雫さん」
この学校の生徒ではない部外者である光影はその光景に驚きを隠せない様子でおずおずと口を開いた。
「ま、まさか・・・この学校ではこれが日常茶飯事なんですか?」
「そんな訳あるか。いくぞ!」
「えっ、ま、待ってくださいよ。」
それだけ言うと雫は校門に向かって走り出した。その後を追って光影も背中に負ぶっているジョージに四苦八苦しつつ走った。
「――――!!」
まるでそれが見えたのか、それまで一切外部の刺激に反応しなかった4人の生徒が一斉に走りよってくる雫と光影に目の焦点を結んだ。そして、さっきまでからは想像も付かないような速度で横に展開し、迎撃するが如く襲い掛かった。そして、その動きは機敏ながらもどこか機械めいたものがあって、ぎこちなくて、まるで操られているような動きだった。
「そんなもの捨てろ。邪魔だろ」
走りながら雫は後ろについてくる光影に言った。
「え、えっと・・・」
一瞬何のことかわからなかった光影もすぐに背中にいるジョージのことを指しているのだと気づいた。どうしたものかとさらに一瞬迷ったが、すぐにそれもそうかと思いなおし一旦立ち止まって背中に負ぶっていたジョージをそっと地面に下ろした。下ろしたというには少し乱暴な動きに一瞬、うぅと唸ったような気もしたがそれでもジョージは目を覚ます気配がなかった。すぐに前を見ると雫はすでに4人の生徒の第一撃をやり過ごした後だった。すぐに相手は別のフォーメーションになって、また襲い掛かるが雫はまるで赤子の手を捻るかのように難なくそれらを或いはかわし、或いは無効化して攻撃をやり過ごしていく。その華麗な、一切の無駄のない動きはあたかも一種芸術のように光影の心に衝撃を与えた。光影はその華麗なる模様にしばらく見とれていたが、やがて、気を取り直し雫に加勢するためにその舞踊の輪に飛び込んだ。
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